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■後集64項

眼看西晉之荊榛、猶矜白刄。
身属北邙之狐兎、尚惜黄金。
語云、猛獣易伏、人心難降。
谿壑易塡、人心難満。
信哉。

眼(め)に西晉(せししん)の荊榛(けいしん)を看(み)て、猶(なお)白刄(しらは)を矜(ほこ)る。
身(み)は北邙(ほくぼう)の狐兎(こと)に属(ぞく)して、向(なお)黄金(おうごん)を惜(お)しむ。
語(ご)云(い)う、「猛獣(もうじゅう)は伏(ふ)し易すく、人心(じんしん)は降(くだ)し易(やすく)し。
谿壑(けいがく)は塡(うず)め易(やす)きも、人心(じんしん)は満(みた)しがたし」。
信(しん)なるかな。

西晉(せいしん)の廃墟を目で見ながら、なおも武力に依存する。
北邙(ほくぼう)の狐や兎の餌食になる体でありながら、なおも黄金に執着する。
昔話に「猛獣を捻じ伏せるのは簡単だが、人の心を屈服させるのは難しい。」
「深い谷を埋めるのは簡単だが、人の心は満たしがたい。」
正しく。
つまり、人の心という心理現象は、物理現象に比べて計り知れないくらいに扱い辛いということ。
言い換えれば、達人はその御しにくい人の心を上手に扱え得てはじめて本物の達人と言われるだろう。
慧智(030717)