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■後集68項

狐眠敗砌、兎走荒台、尽是当年歌舞之地。
露冷黄花、煙迷衰草、悉属旧時争戦之場。
盛衰何常、強弱安在。
念此令人心灰。

狐(きつね)は敗砌(はいせい)に眠(ねむ)り、兎(うさぎ)は荒台(こうだい)を走(はし)り、尽(ことごと)く是(こ)れ当年(とうねん)の歌舞(かぶ)の地(ち)なり。
露(つゆ)は黄花(おうか)に冷(ひ)やかで、煙(えん)は衰草(すいそう)に迷(まよ)い、悉(ことごと)く旧時(きゅうじ)の争戦(そうせん)の場(ば)に属(ぞく)す。
盛衰(せいすい)何(なん)ぞ常(つね)あらん、強弱(きょうじゃく)安(いず)くにか在(あ)る。
此(こ)れを念(おも)えば、人心(じんしん)をして灰(はい)とならしむ。

狐は打ち壊された石畳で眠り、兎は荒れ果てた遺跡を走るは、何れも華やかなりし頃には舞姫が踊った“舞姫どもの夢の跡”である。
露が菊の花を冷やし、霧は枯れ草にさまよい纏(まつ)わる“兵どもの夢の跡”
である。
人の世の栄枯盛衰は何ゆえに変らず、強者、弱者は何故に存在するのか。
こんなことを考えると、人の心は冷え切った灰のようになってします。
つまり、この世の全ての栄枯盛衰は法則であり、昇れば必ず落ちるし、落ちれば必ず昇るもので、無理に昇らなければ、無理に降ろされることは無く、自然に上がれば自然に下がるだけなのだ。
言換えれば、達人とは、その原理原則を知りぬいた人間でなければならないということを覚えておこう。
慧智(030718)