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■前集158項

前人云、抛却自家無尽蔵、沿門持鉢効貧児。
又云、暴富貧児休説夢、誰家竃裡火無烟。
一箴自眛所有、一箴自誇所有。
可為学問切戒。

前人(ぜんじん)云(い)う、「自家(じか)の無尽蔵(むじんぞう)を抛却(ほうきゃく)して、門に沿(そ)い鉢(はち)を持ちて貧児(ひんじ)に効(なら)う」と。
また云(い)う、「暴富(ぼうふ)の貧児(ひんじ)、夢を説(と)くことを休めよ、誰(た)が家の竃裡(そうり)か火に烟(けむり)無(な)からん」と。
一(いつ)は、自(みずか)らの所有(しょゆう)に昧(くら)きを箴(いまし)め、一(いつ)は、自(みずか)ら所有(しょゆう)に誇(ほこ)るを箴(いまし)む。
学問(がくもん)の切(せつ)なる戒(いまし)めと為(な)すべし。

昔の人は、自分の家の膨大な財産を忘れ去り、門塀に並んで乞食の子供の真似をする、と言う。
また、心の貧しい成金よ、ありもしない夢を語るのは止めよ、どこの家の台所からも食事の準備の煙が上がっている、と言う。
*五燈会元で無量崇寿禅師の言。
前者は自分に本来備わっている広大無辺の本心に気が付かないことに対する戒めで、後者は幻でしか過ぎない現世の財産を誇ることを戒めたのだ。
これらを、学問(多分に禅を指すだろう)の大切な戒めとしなさい。
つまり、目に見える幻ではなく、目に見えない現実を知らないで、学問は出来ませんよ、ということ。
言換えれば、活人は、ダイヤの原石を捨てて、金メッキの米粒を大事にするようなバカなことはするなよ、ということ。
慧智(030625)