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■後集89項

斗室中、万慮都捐、説甚画棟飛雲、珠簾捲雨。
三杯後、一真自得、唯知素琴横月、短笛吟風。

斗室(としつ)の中(なか)、万慮(ばんりょ)を都(すべ)て捐(す)つれば、甚(なん)の画棟(がとう)に雲(くも)を飛(と)ばし、珠簾(しゅれん)の雨(あめ)に捲(ま)くを説(と)かん。
三杯(さんぱい)の後(のち)、一真(いっしん)を自(みずか)ら得(え)すれば、只(ただ)素琴(そきん)月(つき)に横(よこ)たえ、短笛(たんてき)を風(かぜ)に吟(ぎん)ずるを知(し)るのみ。

窮屈な部屋の中に居ても、一切の思惑を全て捨て去れば、画棟(古い詩の引用で、豪華な建物を指す)、鮮やかな色の雲を飛ばし、雨に朱色の球暖簾(たまのれん)を撒くような豪華な御殿など要らないと説く。
たった三杯の酒を飲んだだけでも、大自然の原理原則を体現出来れば、飾り気の無い月夜に琴を奏で、短い笛を風に向けただけでも悟りの心境を知ることが出来る。
つまり、大自然の原理原則を悟ることが出来ていれば、狭いところでも狭くなく、質素な日常でも優雅な心が得られる
言換えれば、達人の在り方は、終始一貫して拘り・囚われの心を捨て去ることなのである。
慧智(030721)