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■後集93項

文以拙進、道以拙成。
一拙字有無限意味。
如桃源犬吠、桑間鶏鳴、何等淳龐。
至於寒潭之月、古木之鴉、工巧中便覚有衰颯気象矣。

文(ぶん)は拙(せつ)を以(もっ)て進(すす)み、道(みち)は拙(せつ)を以(もっ)て成(なる)る。
一(いつ)の拙(せつ)の字(じ)に無限(むげん)の意味(いみ)有(あ)り。
「桃源(とうげん)に犬(いぬ)吠(ほ)え、桑間(そうかん)に鶏(けい)鳴(な)く」が如(ごとき)は、何等(なんら)の淳龐(じゅんろう)ぞ。
「寒潭(かんたん)の月(つき)、古木(こぼく)の鴉(からす)」に至(いた)りては、工巧(くこう)の中(うち)、便(すなわ)ち衰颯(すいさつ)の気象(きしょう)有(あ)るを覚(おぼ)ゆ。

文章は自然体になることで上達し、道徳は自然体であることで成就する。
この「拙」という一事は、無限の趣がある。
「桃の花の咲く里に犬が吠え、桑畑の中では鶏が鳴く」というような文は、何とも素直で味わいがある。
「寒々しい川の淵に映る月影、枯れ枝に止まるカラス」という文に至っては、技巧をこらしているが、何故か寒々しい感じがする。
つまり、自然も人の心も、人為を加えないほうが自然で清清しいが、小細工をすると、寒々しくなるということ。
言い換えれば、達人は、表面を取り繕う事より、自然体で生きていてこそ価値があるということを肝に銘じておこう。
慧智(030723)