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■後集128項

一事起則一害生。
故天下常以無事為福。
読前人詩云、勧君莫話封候事、一将功成万骨枯。
又云、天下常令万事平、匣中不惜千年死。
雖有雄心猛気、不覚化為氷霰矣。

一事(いちじ)起(お)これば一害(いちがい)生(しょう)ず。
故(ゆえ)に天下(てんか)は常(つね)に無事を以(もっ)て福(ふく)と為(な)す。
前人(ぜんじん)の詩(し)を読(よ)むに、云(いわ)く「君(きみ)に勧(すす)む封候(ほうこう)の事(こと)を語(かた)ること莫(なか)れ、一将(いっしょう)功成(こうなり)りて万骨(ばんこつ)枯(か)る」。
又(ま)た云(い)く、「天下(てんか)常(つね)に万事(ばんじ)をして平(たい)らかならしむれば、匣中(こうちゅう)に千年(せんねん)死(し)するを惜(お)しまず」。
雄心(ゆうしん)猛気(もうき)有(あ)りと雖(いえど)も、覚(おぼ)えず化(か)して氷霰(ひょうさん)と為(な)る。

何か一つ出来事があれば、一つの弊害が生れる。
だから、この世は、何事も起きないことを良しとしてきた。
昔の人の詩を読むと、「君、立身出世の話はしないでくれ。何故なら、一人の将軍の功績の影では膨大な兵士が犠牲となり、戦場で朽ち果てているからだ」
また、「天下泰平が実現できるなら、箱の中で千年も使われなくても、少しも悔むことはない(武将が自分を刀に準えたのだろう)」
(この弁からすれば)勇猛果敢な心があっても、氷やあられのように、知らない内に消えてしまう。
つまり、百戦錬磨の将軍でさえ、悲惨な現実を見続けていれば、戦意は消失し、何事も無い事が一番だと悟るものなのだ。
言い換えれば、達人は、禅語にいう「無事是貴人」、自然に手を加えないことが貴い事、ということを心に銘じておくべきだだろう。
慧智(030730)