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2006年03月09日

■後集121項

世人為栄利纏縛、動曰塵世苦海。
不知雲白山青、川行石立、花迎鳥咲、谷答樵謳。
世亦不塵、海亦不苦、彼自塵苦其心爾。

世人(せじん)は栄利(えいり)の為(ため)に纏縛(てんばく)せられて、動(やや)もすれば塵世(じんせ)苦海(くかい)と曰(い)う。
知(し)らず、雲(くも)白(しろ)く山(やま)青(あお)く、川(かわ)
行(ゆ)き石(いし)立(た)ち、花(はな)迎(むか)え鳥(とり)咲(わら)い、谷(たに)答(こた)え樵(きこり)謳(うた)う。
世(よ)も亦(また)塵(じん)ならず、海(うみ)も亦(ま)た苦(く)ならず、彼(かれ)自(みずか)ら其(そ)の心(こころ)を塵苦(じんく)にするのみ。

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■後集122項

花看半開、酒飲微酔。
此中大佳趣。
若至爛漫骸醄、便成悪境矣。
履盈満者、宜思之。

花(はな)半(なかば)開(ひら)くを看(み)、酒(さけ)微(かすか)に酔(よい)に飲(を)む。
此(この)中(うち)に大(おお)いに佳趣(かしゅ)有(あ)り。
若(も)し爛漫骸醄(らんまんもうとう)に至(いた)らば、便(すなわ)ち悪境(あくきょう)を成(な)す。
盈満(えいまん)を履(ふ)む者(もの)、宜(よろ)しく之(これ)を思(おも)うべし。

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■後集123項

山肴不受世間潅漑、野禽不受世間拳養、其味皆香而且冽。
吾人能不為世法所点染、其臭味不迥然別乎。

山肴(さこう)は世間(せけん)の潅漑(かんがい)を受(う)けず、野禽(やきん)は世間(せけん)の拳養(けんよう)を受けず、其(そ)の味(あじ)皆(みな)香(かんば)しくして且(か)つ冽(れつ)なり。
吾人(ごじん)能(よ)く世法(せほう)に点染(てんせん)せられざれば、其(そ)の臭味(しゅうみ)は、迥然(けいぜん)として別(べつ)ならずや。

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■後集124項

栽花種竹、玩鶴観魚、亦要有段自得処。
若徒留連光景、玩弄物華、亦吾儒之口耳、釈氏之頑空而已。
有何佳趣。

花(はな)を栽(う)え竹(たけ)を種(う)え、鶴(つる)を玩(もてあそび)び魚(うお)を観(み)るも、亦(また)段(だん)の自得(じとく)する処(ところ)有(あ)るを要(よう)す。
若(も)し徒(いたず)らに光景(こうけい)に留連(りゅうれん)し、物華(ぶつか)を玩弄(がんろう)せば、亦(また)吾(わ)が儒(じゅ)の口耳(こうじ)、釈氏(しゃくし)の頑空(がんくう)のみ。
何(なん)の佳趣(かしゅ)か有(あ)らん。

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■後集125項

山林之士、清苦而逸趣自饒、農野之夫、鄙略而天真渾具。
若一矢身市井伹儈、不若転死溝壑神骨猶清。

山林(さんりん)の士(し)は、清苦(せいく)にして而(しか)も逸趣(いつしゅ)自(おのず)から饒(おお)く、農野(のうふ)の夫(ふ)は、鄙略(ひりゃく)にして而(しか)も天真(てんしん)渾(すべ)て具(そな)わる。
若(も)し一(ひと)たび身(み)を市井(しせい)の伹儈(しょかい)に失(しっ)さば、溝壑(こうがく)に転死(てんし)して、神骨(しんこつ)猶(なお)清(きよ)きに若(し)かず。

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■後集126項

非分之福、無故之獲、非造物之釣餌、即人世之機妌。
此処着眼不高、鮮不堕彼術中矣。

分(ぶん)に非(あら)ざるの福(さいわい)、故(ゆえ)無(な)きの獲(えもの)は、造物(ぞうぶつ)の釣餌(ちょうじ)に非(あら)ざれば、即(すなわ)ち人世(じんせ)の機妌(きせい)なり。
此(こ)の処(ところ)眼(め)を着(つ)くること高(たか)からざれば、彼(か)の術中(じゅっちゅう)に堕(お)ちざること鮮(すくな)し。

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■後集127項

人生原是一傀儡。
只要根蒂在手。
一線不乱、巻舒自由、行止在我。
一毫不受他人提掇、便超出此場中矣。

人生(じんせい)は原(もと)是(こ)れ一(いつ)の傀儡(かいらい)なり。只(ただ)根蒂(こんてい)の手(て)に在(あ)るを要(よう)す。
一線(いっせん)乱(みだ)れず、巻舒(かんじょ)自由(じゆう)なれば、行止(こうし)我(われ)に在(あ)り。
一毫(いちごう)も他人(たにん)の提掇(てつてつ)を受(う)けざれば、便(すなわ)ち此(こ)の場中(じょうちゅう)を超出(ちょうしゅつ)せん。

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■後集128項

一事起則一害生。
故天下常以無事為福。
読前人詩云、勧君莫話封候事、一将功成万骨枯。
又云、天下常令万事平、匣中不惜千年死。
雖有雄心猛気、不覚化為氷霰矣。

一事(いちじ)起(お)これば一害(いちがい)生(しょう)ず。
故(ゆえ)に天下(てんか)は常(つね)に無事を以(もっ)て福(ふく)と為(な)す。
前人(ぜんじん)の詩(し)を読(よ)むに、云(いわ)く「君(きみ)に勧(すす)む封候(ほうこう)の事(こと)を語(かた)ること莫(なか)れ、一将(いっしょう)功成(こうなり)りて万骨(ばんこつ)枯(か)る」。
又(ま)た云(い)く、「天下(てんか)常(つね)に万事(ばんじ)をして平(たい)らかならしむれば、匣中(こうちゅう)に千年(せんねん)死(し)するを惜(お)しまず」。
雄心(ゆうしん)猛気(もうき)有(あ)りと雖(いえど)も、覚(おぼ)えず化(か)して氷霰(ひょうさん)と為(な)る。

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■後集129項

淫奔之婦、矯而為尼、熱中之人、激而入道。
清浄之門、常為婬邪之渕藪也如此。

淫奔(いんばく)の婦(ふ)は、矯(きょう)して尼(に)と為(な)り、熱中(ねっちゅう)の人(ひと)は、激(げき)して道(みち)に入(い)る。清浄(せいじょう)の門(もん)、常(つね)に婬邪(いんじゃ)の渕藪(えんそう)と為(な)るや、此(かく)の如(ごと)し。

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■後集130項

波浪兼天、舟中不知懼、而舟外者寒心。
猖狂罵坐、席上不知警、而席外者咋舌。
故君子身雖在事中、心要超事外也。

波浪(はろう)の天(てん)を兼(か)ねるや、舟中(しゅうちゅう)懼(おそ)るるを知(し)らず、而(しか)して舟外(しゅうがい)の者(もの)は心(こころ)を寒(さむ)くす。
猖狂(しょうきょう)坐(ざ)を罵(ののし)るや、席上(せきじょう)警(いま)しむるを知(し)らず、而(しか)して席外(せきがい)の者(もの)は舌(した)を咋(か)む。
故(ゆえ)に君子(くんし)は、身(み)事中(じちゅう)に在(あ)りと雖(いえど)も、心(こころ)は事外(じがい)に越(こ)えんことを要(よう)するなり。

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■後集131項

人生減省一分、便超脱一分。
如交遊減便免紛擾、言語減便寡愆尤、思慮減則精神不耗、聡明減則混沌可完。
彼不求日減而求日増者、真桎梏此生哉。

人生(じんせい)は、一分(いちぶ)を減省(げんせい)すれば、便(すなわ)ち一分(いちぶん)を超脱(ちょうだつ)す。
如(も)し交遊(こうゆう)を減(げん)ずれば便(すなわ)ち紛擾(ふんじょう)を免(まぬが)れ、言語(げんご)を減ずれば、便(すなわ)ち愆尤(けんゆう)寡(すくな)く、思慮(しりょ)を減(げん)ずれば、便(すなわ)ち精神(せいしん)を耗(こう)せず、聡明(そうめい)を減(げん)ずれば、則(すなわ)ち混沌(こんとん)完(まったく)す。
彼(か)の日(ひ)に減(げん)ずるを求(もと)めずして、日(ひ)に増(ま)すを求(もと)むるは、真(まこと)に此(こ)の生(せい)を桎梏(しつこく)するかな。

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■後集132項

天運之寒暑易避、人世之炎凉難除。
人世之炎凉易除、吾心之氷炭難去。
去得此中之氷炭、則満腔皆和気、自随地有春風矣。

天運(てんうん)の寒暑(かんじょ)は避(さ)け易(やす)きも、人(ひと)の世(よ)の炎凉(えんりょう)は除(のぞ)き難(がた)し。
人(ひと)世(よ)の炎凉(えんりょう)は除(のぞ)き易(やす)きも、吾(わ)が心(こころ)の氷炭(ひょうたん)は去(さ)りがたし。
此(こ)の中(なか)の氷炭(ひょうたん)を去(さ)り得(え)ば、則(すなわ)ち満腔(まんくう)皆(みな)和気にして、自(おのず)から地(ち)に随(した)がいて春風(しゅんぷう)有(あ)り。

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■後集133項

茶不求精而壷亦不燥。
酒不求冽而樽亦不空。
素琴無絃而常調、短笛無腔而自適。
縦難超越羲皇、亦可匹儔荊嵆阮。

茶(ちゃ)は精(せい)を求(もと)めず、而(しか)して壷(つぼ)も亦(また)燥(かわ)かず。
酒(さけ)は冽(れつ)を求(もと)めず、而(しか)して樽(たる)も亦(また)空(むな)しからず。
素琴(そきん)は絃(げん)無(な)くして常(つね)に調(ととの)い、短笛(たんてき)は腔(あな)無(な)くして自(おのず)から適(てき)す。
縦(たと)い羲皇(ぎこう)を超越(ちょうえつ)し難(がた)きも、亦(また)嵆阮(けいげん)に匹儔(ひっちゅう)すべし。

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■後集134項

釈氏随縁、吾儒素位。
四字是渡海的浮嚢。
蓋世路茫茫、一念求全、則万緒紛起。
随寓而安、則無入不得矣。

釈氏(しゃくし)の随縁(ずいえん)、吾(わ)が儒(じゅ)の素位(そい)、
四字(よじ)は是(こ)れ海(うみ)を渡(わた)るの浮嚢(ふのう)なり。
蓋(けだ)し、世路(せろ)は茫々(ぼうぼう)とし、一念(いちねん)全(まった)きを求(もと)むれば、則(すなわ)ち万緒(ばんしょ)は紛起(ふんき)す。
寓(ぐう)に随(したが)いて安(やす)んずれば、則(すなわ)ち入(い)るとして得(え)ざること無(な)し。

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