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2006年03月09日

■前集1項

棲守道徳者、寂寞一時。
依阿権勢者、凄凉万古。
達人観物外之物、思身後之身。
寧受一時之寂寞、毋取万古之凄凉。

道徳に棲守(せいしゅ)する者は、寂寞たること一時。
権勢に依阿する者は、凄凉たること万古。
達人は物外の物を観、身後の身を思う。
むしろ一時の寂寞を受くるも、万古の凄凉を取ることなかれ。

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■前集2項

渉世浅、点染亦浅、歴事深、機械亦深。
故君子与其練達、不若朴魯。
与其曲謹、不若疎狂。

世を渉(わたる)ること浅ければ、点染(てんせん)もまた浅く、事を歴(ふ)ること深ければ、機械もまた深し。故に君子はその練達(れんたつ)ならんよりは、朴魯(ぼくろ)なるにしかず。その曲謹(きょっきん)ならんよりは、疎狂(そきょう)なるにしかず。

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■前集3項

君子之心事、天青日白、不可使人不知。
君子之才華、玉韜珠蔵、不可使人易知。

君子の心事は、天青く日白くがごとくすれば、人をして知らざらしむべからず。
君子の才華(さいか)は、玉のごとくを韜(つつみ)、珠(たま)のごとく蔵(かく)さば、人をして知りやすからしむべからず。

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■前集4項

勢利紛華、不近者為潔。近之而不染者為尤潔。智械機巧、不知者為高。知之而不用者為尤高。

勢利紛華(せいりふんか)は、近づかざる者を潔(きよ)しとなし、これに近づきて而(しか)も染まざるものを尤(もっと)も潔しとなす。
智械機巧(ちかいきこう)は、知らざるものを高しとなし、これを知りて而も用いざる者を尤も高しとなす。

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■前集5項

耳中常聞逆耳之言、心中常有払心之事、纔是進徳修行的砥石。
若言言悦耳、事事快心、便把此生埋在鴆毒中矣。

耳中、常に耳に逆らうの言を聞き、心中、常に心に払(もと)るの事ありて、はじめて是れ徳に進みて行いを修むるの砥石(といし)なり。
若(も)し言々耳を悦ばし、事々心に快(こころよ)ければ、便(すなわち)この生を把(と)りて鴆毒(ちんどく)の中に埋めん。

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■前集6項

疾風怒雨、禽鳥戚戚。霽日光風、草木欣欣。
可見天地不可一日無和気、人心不可一日無喜神。

疾風怒雨には、禽鳥(きんちょう)も戚々たり。霽日(せいじつ)光風には、草木も欣々(きんきん)たり。
見るべし、天地に一日も和気なかるべからず、人心に一日も喜神なかるべからず。

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■前集7項

醲肥辛甘非真味。
真味只是淡。
神奇卓異非至人。
至人只是常。

醲肥辛甘(じょうひひんかん)は真味にあらず。真味は只だこれ淡なり。神奇卓異は至人(しじん)にあらず。至人はただ是れ常なり。

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■前集8項

天地寂然不動、而気機無息少停。日月昼夜奔馳、而貞明万古不易。
故君子、閒時要有喫緊的心思、忙処要有悠閒的趣味。

天地は寂然(せきぜん)として動かずして、而(しか)も気機は息(や)むことなく、停まること少(まれ)なり。
日月(にちげつ)は昼夜に奔馳(ほんち)して、而(しか)も貞明(ていめい)は万古に易(かわ)らず。
故に君子は、閒時(かんじ)に喫緊(きつきん)の心思うるを要し、忙処(ぼうしょ)に悠閒(ゆうかん)の趣味(おもむき)あるを要す。

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■前集9項

夜深人静、独坐観心、始覚妄窮而真独露。毎於此中、得大機趣。既覚真現而妄難逃、又於此中、得大慚忸。

夜深く人静まるとき、独り坐して心を観(み)れば、始めて妄窮(もうきわ)まりて、真、独(ひとり)り露(あら)わるを覚(さと)る。
毎(つね)にこの中において、大機趣を得(う)。すでに真、現(あら)われて妄(もう)の逃れがたきを覚る。またこの中において、大慚忸(だいぎんじく)を得る。

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■前集10項

恩裡由来生害。故快意時、須早回頭。敗後或反成功。故払心処、莫便放手。

恩裡(おんり)に由来して害を生ず。故に快意の時、須(すべか)く早く頭(こうべ)を回(めぐ)らすべし。
敗れし後、或(ある)いは反して功を成す。故に払心(ふっしん)の処、便(すなわ)ちを放つこと莫(なか)れ。

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■前集11項

藜口筧(草冠に見る)譌腸者、多氷清玉潔。
袞衣玉食者、甘婢膝奴顔。蓋志以澹泊明、而節従肥甘喪也。

藜口けん腸(れいこうけんちょう)は、氷清玉潔(ひょうけいぎょっけつ)多し。袞衣玉食(こんいぎょくしょく)は、婢膝奴顔(ひしつどがん)に甘んず。
蓋(けだ)し、志は澹泊(たんぱく)をもって明らかに、而(しか)して節は肥甘(ひかん)より喪(うしな)う。

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■前集12項

面前的田地、要放得寛、使人無不平之歎。
身後的恵沢、要流得久、使人有不匱之思。

面前の田地は、放ちえて寛きを要し、人をして不平の歎なからしむ。
身後の恵沢は、流しえて久しきを要し、人をして不匱の思いあらしむ。

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■前集13項

経路窄処、留一歩与人行、滋味濃的、減三分譲人嗜。
此是渉世一極安楽法。

経路窄き処は、一歩を留めて人の行くに与え、滋味濃やかなるものは、三分を減じて人の嗜むに譲る。
これはこれ、世を渉る一の極楽法なり。

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■前集14項

作人無甚高遠事業、擺脱得俗情、便入名流。
為学無甚増益功夫、減除得物累、便超聖境。

人と作(な)りて甚(なん)の高遠の事業なきも、俗情(ぞくじょう)を擺脱(はいだつ)し得(う)れば、便(すなわ)ち名流に入らん。
学を為(な)して甚(なん)の増益の功夫(くふう)なきも、物累(ぶつるい)を減除し得れば、聖境(せいきょう)を超えん。

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■前集15項

交友、須帯三分侠気。
作人、要在一点素心。

友に交わるには須(すべか)らく三分の侠気を帯びべし。
人と作(な)るには一点の素心を在するを要す。

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■前集16項

寵利毋居人前、徳業毋落人後。
受享毋踰分外、修為毋減分中。

寵利(ちょうり)は人の前に居ることなかれ、徳業は人の後に落つることなかれ。
受享(じゅきょう)は分外に踰(こ)ゆることなかれ、修為(しゅうい)は分中に減ずることなかれ。

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■前集17項

処世譲一歩為高。
退歩即進歩的張本。
待人寛一分是福。
利人実利己的根基。

世を処するに一歩を譲るを高しとなす。
歩を退くるは即(すなわ)ち歩を進むるの張本なり。
人を待つに一分を寛(ひろく)にするはこれ福(さいわい)なり。
人を利するは実に己を利するの根基(こんき)なり。

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■前集18項

蓋世功労、当不得一個矜字。
弥天罪過、当不得一個悔字。

世を蓋(おお)うの功労も、一個の矜(きょう)の字に当たり得ず。
天に弥(わた)るの罪過も、一個の悔(かい)の字に当たり得ず。

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■前集19項

完名美節、不宜独任。
分些与人、可以遠害全身。
辱行汚名、不宜全推。
引些帰己、可以韜光養徳。

完名美節は、よろしく独り任ずべからず。些を分ちて人に与え、もって害を遠ざけ身を全うすべし。
辱行汚名は、よろしく全く推すべからず。些を引きて己れに帰し、もって光を韜み徳を養うべし。

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■前集20項

事事、留個有余不尽的意思、便造物不能忌我、鬼神不能損我。
若業必求満、巧必求盈者、不生内変、必召外憂。

事々、個の有余不尽(ゆうよふじん)の意思を留むれば、便(すなわ)ち造物も我を忌み嫌うこと能(あた)わず、鬼神も我を損すること能わず。
若(も)し業(ごう)は必ず満(まん)を求め、功は必ず盈(えい)を求むれば、内変を生ぜざれば必ず外憂(がいゆう)を召(まね)かん。

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■前集21項

家庭有個真仏、日用有種真道。
人能誠心和気、愉色婉言、使父母兄弟間、形骸両釈、意気交流、勝於調息観心万倍矣。

家庭に個の真仏あり、日用に種の真道あり。
人よく誠心和気、愉色婉言(ゆしょくえんげん)、父母兄弟の間をして、形骸両(ふた)つながら釈(と)け、意気こもごも流れしめば、調息観心に勝ること万倍なり。

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■前集22項

好動者、 雲雷風灯、嗜寂者、死灰槁木。
須定雲止水中、有鳶飛魚躍気象、纔是有道的心体。

動を好む者は、雲電風灯、寂(じゃく)を嗜(たしな)むは、死灰槁木(しかいこうぼく)なり。
須(すべから)く定雲止水(うんていしすい)の中に、鳶(とび)飛び魚躍(うをおど)るの気象あるべくして、纔(はじ)めて是は有道の心体なり。

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■前集23項

攻人之悪、毋太厳、要思其堪受。
教人以善、毋過高、当使其可従。

人の悪を攻(せ)むるは、太(あまり)にも厳なることなかれ、その受くるに堪えんことを思うを要す。
人に教うるにも善を以ってするは、高きに過ぐることなかれ、当(まさ)にそれをして従うべからしむべし。

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■前集24項

糞虫至穢、変為蝉而飲露於秋風。
腐草無光、化為蛍而燿釆於夏月。
固知潔常自汚出、明毎従晦生也。

糞虫(ふんちゅう)は至穢(しわい)なるも、変じて蝉(せみ)となりて露(つゆ)を秋風に飲む。
腐草(ふそう)は光なきも、化して蛍(ほたる)となりて釆(さい)を夏月(かげつ)に耀(かがや)かす。
周(まこと)に知る、潔きは常に汚れより出で、明るきは毎(つね)に晦(みそか)より生ずるを。

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■前集25項

矜高倨傲、無非客気。降伏得客気下、而後正気伸。
情欲意識、尽属妄心。消殺得妄心尽、而後真心現。

矜高倨傲(きょうこうきょごう)は、客気(かっき)にあらざるはなし。客気を降伏(こうふく)し得下(えくだ)して、而後(しかるのち)に正気(しょうき)は伸(の)ぶ。
情欲(じょうよく)意識は、尽(ことごと)く妄心に属す。妄心を消殺(しょうさつ)し得尽(えつく)くして、而後(しかるのち)に真心(しんしん)は現わる。

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■前集26項

飽後思味、則濃淡之境都消、色後思婬、則男女之見尽絶。
故人常以事後之悔悟、破臨事之癡迷、則性定而動無不正。

飽後(ほうご)、味を思えば、則(すなわ)ち濃淡の境(きょう)都(すべ)て消え、色後、婬(いん)を思えば、男女の見尽(けん・ことごと)く絶ゆ。
故(ゆえ)に人つねに事後の悔悟(かいご)をもって、臨事の癡迷(ちめい)を破らば、則(すなわ)ち性(せい)定まりて、動くこと正しからざるはなし。

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■前集27項

居軒冕之中、不可無山林的気味。
処林泉之下、須要懐廊廟的経綸。

軒冕(けんべん)の中(うち)に居りては、山林的(の)気味なかるべからず。
林泉の下(もと)に処(お)りては、須(すべか)らく廊廟(ろうびょう)的(の)経綸(けいりん)を懐(いだ)くことを要すべし。

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■前集28項

処世不必邀功、無過便是功。
与人不求感徳、無怨便是徳。

世に処(しょ)しては、必(かなら)ずしも功(こう)を邀(もと)めずして、過(あやま)ちなきは便(すなわ)ち是れ功なりとす。
人に与えては徳に感ずることを求めずして、怨(うら)みなきは便(すなわ)ち是れ徳なりとす。

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■前集29項

憂勤是美徳、太苦則無以適性怡情。
澹泊是高風、太枯則無以済人利物。

憂勤(ゆうきん)は是(こ)れ美徳(びとく)なるも、太(あまり)に苦しめば、則(すなわ)ち以(も)って性(さが)に適(かな)い怡(よろこ)ばしむること無し。
澹泊(たんぱく)は是(こ)れ高風(こうふう)なるも、太(あまり)に枯(か)るれば、則(すなわ)ち以(も)て人を済(すく)い物(もの)を利(り)すること無し。

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■前集30項

事窮勢蹙之人、当原其初心。
功成行満之士、要観其末路。

事窮(こときわ)まり勢(いきお)い蹙(ちぢ)まるの人は、当(まさ)にその初心を原(たず)ぬべし。
功成り行(おこない)満(み)つるの士は、その末路を観んことを要す。

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