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2006年03月09日

■前集61項

春至時和、花尚鋪一段好色、鳥且囀幾句好音。
士君子幸列頭角、復遇温飽。
不思立好言行好事、雖是在世百年、拾以未生一日。

春至(はるいた)り時和(ときやわら)げば、花尚一段(なおいちだん)の好色を鋪(し)き、鳥すら且(か)つ幾句(いくく)の好音(こうおん)を囀(さえず)る。
士君子(しくんし)、幸(さいわい)に頭角(とうかく)を列(つら)ね、復(ま)た温飽(おんぽう)に遇(あ)うも、好言(こうげん)を立て、好事(こうじ)を行(おこな)を思わざれば、是(こ)れ世に存(あ)ること百年なりと雖(いえど)も、恰(あたか)も未(いま)だ一日をも生きざるに似たり。

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■前集62項

学者有段兢業的心思、又要有段瀟洒的趣味。
若一味斂束清苦、是有秋殺無春生。
何以発育万物。

学ぶ者は、段(だん)の兢業(きょうぎょう)の心思(しんし)有(あ)り、又段(まただん)の瀟洒(しょうしゃ)の趣味有(しゅみあ)るを要(よう)す。
若(も)し一味(いちみ)に斂束清苦(れんそくせいく)なるにみならば、是れ秋殺(しゅうさつ)ありて春生(しゅんせい)無きなり、何を以(もっ)てか、万物(ばんぶつ)を発育(はついく)せん。

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■前集63項

真廉無廉名。立名者正所以為貧。
大巧無巧術。用術者乃所以為拙。

真の廉(れん)には廉(れん)の名なし。正に貧(たん)となす所以(ゆえん)なり。
大巧(だいこう)は巧術(こうじゅつ)なし。術を用(もち)うるは、乃(すなわ)ち拙(せつ)と為(な)す所以(ゆえん)なり。

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■前集64項

欹器以満覆、撲満以空全。
故君子寧居無不居有、寧処缼不処完。

欹器(いき)は満(み)つるを以って覆(くつが)えり、撲満(ぼくまん)は空しきを以って全(まっとう)す。
故に君子は寧(むし)ろ無に居るも有に居らず、寧(むし)ろ缼(けつ)に処(お)るも完に処(よ)らず。

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■前集65項

名根未抜者、縦軽千乗甘一瓢、総堕塵情。
客気未融者、雖沢四海利万世、終為剰技。

名根(めいこん)の未だ抜(ぬ)けざる者は、縦(たと)い千乗(せんじょう)を軽(かろ)んじ一瓢(いっぴょう)に甘んずるとも、総(すべ)て塵情(じんじょう)に堕つ。
客気(かっき)の未だ融(と)けざる者は、四海(しかい)を沢(うるお)し万世(ばんせい)を利すと雖(いえど)も、終(つい)に剰技(じょうぎ)となる。

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■前集66項

心体光明、暗室中有青天。
念頭暗昧、白日下生厲鬼。

心体光明(しんたいこうみょう)なれば、暗室の中(うち)にも青天(せいてん)有り。
念頭暗昧(ねんとうあんまい)なれば、白日の下(もと)にも厲鬼(れいき)生ず。

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■前集67項

人知名位為楽、不知無名無位之楽為最真。
人知饑寒為憂、不知不饑不寒之憂為更甚。

人は名位(めいい)の楽しみ為(た)るを知りて、名(な)無く位(くらい)無きの楽しみの最(っと)も真(しん)たるを知らず。
人は饑寒(きかん)の憂(うれ)い為(た)るを知りて、饑(う)えず寒(こご)えざるの憂いの更(さら)に甚(はなはだ)しきたるを知らず。

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■前集68項

為悪而畏人知、悪中猶有善路。
為善而急人知、善処即是悪根。

悪を為(な)して人の知らんことを畏(おそ)るは、悪中(あくちゅう)にも尚(なお)善路(ぜんろ)有り。
善を為(な)して人の知らんことを急(いそ)ぐは、善処(ぜんしょ)即(すなわ)ち是(これ)悪根(あっこん)なり。

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■前集69項

天之機緘不測。
抑而伸、伸而抑、皆是播弄英雄、顛倒豪傑処。
君子只是逆来順受、居安思危。
天亦無所用其伎倆矣。

天の機緘(きかん)は測(はか)られず。抑(おさ)えて伸(の)べ、伸(の)べては抑(おさ)え、皆(みな)是れ英雄(えいゆう)を播弄(ばろう)し、豪傑(ごうけつ)を顛倒(てんとう)する処(ところ)なり。
君子は只だ是れ、逆に来たれば順(じゅん)に受け、安(やす)きに居りて危(あやう)きを思うのみ。天も亦(また)其の伎倆(ぎりょう)を用(もら)うる所無し。

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■前集70項

燥性者火熾、遇物則焚。寡恩者氷清、逢物必殺。
凝滞固執者、如死水腐木、生機已絶。
倶難建功業而延福祉。

燥性(そうせい)なる者、火のごとく熾(さかん)にて、物に遇(あ)わば則(すなわ)ち焚(や)く。寡恩(かおん)なる者は氷のごとく清く、物に逢えば必ず殺す。
凝滞固執(ぎょうたいこしつ)する者は、死水腐木(しすいふぼく)の如く、生機(せいき)已(すで)に絶(た)ゆ。倶(とも)に功業(こうぎょう)を建(た)てて福祉延べがたし。

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■前集71項

福不可徼。養喜神以為召福之本而已。
禍不可避。去殺機以為遠禍之方而已。

福は徼(もと)むべからず。喜神(きしん)を養(やしな)いて、以って福を召くの本(もと)と為(な)さんのみ。
禍(わざわい)は避(さ)くべからず。殺機(さっき)を去(のぞ)きて禍(わざわい)を遠ざくるの方と為(な)さんのみ。

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■前集72項

十語九中、未必称奇、一語不中則愆尤駢集。
十謀九成、未必帰功、一謀不成則貲議叢興。
君子所以寧黙毋躁、寧拙毋巧。

十語(じゅうご)の九(きゅう)中(あた)るも、未(いま)だ必ずしも奇(き)と称せず。一語(いちご)中(あた)らざれば、則(すな)ち、愆尤駢(けんゆうなら)び集まる。
十謀(じゅうぼう)の九(きゅう)成(な)るも、未(いま)だ必ずしも功(こう)を帰せず。一謀(いちぼう)成らざれば貲議叢(しぎむらが)り興(おこ)る。
君子、寧(むし)ろ黙(もく)なるも躁(そう)なること毋(な)く、寧(むし)ろ拙(せつ)になるも巧なることなき所以(ゆえん)なり。

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■前集73項

天地之気、暖則生、寒則殺。
故性気清冷者、受享亦凉薄。
唯和気熱心之人、其福亦厚、其沢亦長。

天地の気、暖(だん)なれば則(すなわ)ち生じ、寒なれば則(すなわ)ち殺(さい)す。
故に性気(せいき)の清冷(せいれい)なる者は、受享(じゅきょう)も亦(ま)た凉薄(りょうはく)なり。
唯(た)だ、気が和らかく、心熱つき人のみ、其の福も亦(ま)た厚く、その沢(うるおい)も亦(ま)た長し。

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■前集74項

天理路上甚寛、稍遊心、胸中便覚広大宏朗。
人欲路上甚窄、纔寄迹、眼前倶是荊棘泥塗。

天理の路上は甚(はなは)だ寛(ひろ)く、稍(やや)心を遊ばせば、胸中は便(すなわ)ち広大宏朗(こうだいこうろう)なるを覚(おぼ)ゆ。
人欲の路上は甚(はなは)だ窄(せま)く、纔(わず)かに迹(あと)を寄すれば、眼前は倶(とも)に是れ荊棘泥塗(けいきょくでいと)なり。

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■前集75項

一苦一楽相磨練、練極而成福者、其福始久。
一疑一信参勘、勘極而成知者、其知始真。

一苦一楽(っくいちらく)して、相磨練(あいまれん)し、練極(れんきわ)まりて福(ふく)を成さば、その福始(ふくはじ)めて久(ひさ)し。
一疑一信(いちぎいっしん)して、相参勘(あいさんかん)し、勘極(かんきわ)まりて知(ち)を成(なさ)ば、其の知(と)始(はじ)めて真(しん)なり。

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■前集76項

心不可不虚。虚則義理来居。
心不可不実。実則物欲不入。

心、虚(きょ)ならざるべからず。虚(きょ)なれば則(すなわ)ち義理来たりて居(お)る。
心、実(じつ)ならざるべからず。実なれば則(すなわ)ち物欲は入(い)らず。

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■前集77項

地之穢者多生物、水之清者常無魚。
故君子当在含垢納汚之量。不可持好潔独行之操。

地の穢(けが)れたるは、多く物を生じ、水の清めるは、常に魚無し。
故に君子は、当(まさ)に垢(こう)を含み汚(お)を納(い)るるの量(りょう)を在(そん)すべく、潔(けつ)を好み独り行なうの操を持(じ)すべからず。

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■前集78項

泛駕之馬、可就駆馳。躍冶之金、終帰型範。
只一優游不振、便終身無個進歩。
白沙云、為人多病未足羞。
一生無病是吾憂。
真確論也。

泛駕(ほうが)の馬も駆馳(ちく)に就(つ)くべし。躍冶(やくや)の金(きん)も終(つい)に型範(けいはん)に帰す。
只(ただ)一(いつ)に優游(ゆうゆう)して振(ふる)わざれば、更(すなわ)ち終身(しゅうしん)個(こ)の進歩無(しんぽな)し。
白沙(はくさ)云(い)う、「人と為(な)り多病(たびょう)なるは、未だ羞(は)ずるに足らず、一生病(やまい)無きは、是れ吾(わ)が憂(うれ)いなり」と。
真(まこと)に確論(かくろん)なり。

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■前集79項

人只一念貪私、便銷剛為柔、塞智為昏、変恩為惨、染潔為汚、壊了一生人品。
故古人以不貪為宝、所以度越一世。

人は只だ一念貪私(いちねんたんし)なれば、便(すなわ)ち剛(ごう)を銷(け)して柔(じゅう)となし、智を塞(ふさ)ぎて昏(こん)となし、恩を変じて惨(さん)となし、潔を染(そ)めて汚(お)となし、一生の人品を壊了(かいりょう)す。
故に古人は貪(むさぼ)らざるを以って宝(たから)となせば、一世に度を越する所以なり。

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■前集80項

耳目見聞為外賊、情欲意識為内賊。
只是主人翁、惺惺不昧。
独坐中堂、賊便化為家人矣。

耳目見聞(じもくけんぶん)は外賊(がいぞく)為(た)り。情欲意識(じょうよくいしき)は内賊(ないぞく)たり。
只だ是れ主人翁(しゅじんおう)にて、惺々不昧(せいせいふまい)。
中堂(ちゅうどおう)に独坐(どくざ)すれば、賊(ぞく)も便(すなわ)ち化(か)して家人(かじん)と為(な)らん。

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■前集81項

図未就之功、不如保已成之業。
悔既往之失、不如防将来之非。

未だ就(な)らざるの功を図るは、已(すで)に成るの業を保つに如かず。
既往(きおう)の失(しつ)を悔(く)ゆるは、将来の非を防ぐに如かず。

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■前集82項

気象要高曠、而不可疎狂。
心思要縝密、而不可瑣屑。
趣味要冲淡、而不可偏枯。
操守要厳明、而不可激烈。

気象(きしょう)は高曠(こうこう)なるを要(よう)するも、而(しか)して疎狂(そきょう)なるべからず。
心思(しんし)は縝密(しんみつ)なるを要するも、而(しか)して瑣屑(させつ)なるべからず。
趣味は冲淡(ちゅうたん)なるを要するもし、而して偏枯(へんこ)なるべからず。
操守(そうしゅ)は厳明(げんめい)を要するも、而して激烈(げきれつ)なるべからず。

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■前集83項

風来疎竹、風過而竹不留声。
雁度寒潭、雁去而潭不留影。
故君子、事来而心始現、事去而心随空。

風、疎竹(そちく)に来たるも、風過ぎて竹に声を留めず。
雁(かり)、寒潭(かんたん)を度るも、雁去りて潭(ふち)に影を留めず。
故に、君子は事(こと)来たりて、心に始めて現われ、事去りて心随(したが)って空し。

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■前集84項

清能有容、仁能善断。
明不傷察、直不過矯。
是謂蜜餞不甜、海味不鹹、纔是懿徳。

清(せい)なるも能(よ)く容(い)るる有り、仁(じん)なるも能(よ)く断(だん)を善(よ)くす。
明(めい)なるも察(さつ)を傷つけず、直(ちょく)なるも矯(きょう)に過ぎず。
是れを蜜餞(みつせん)甜(あま)からず、海味(かいみ)鹹(から)からずと謂(い)う。
纔(わず)かに是れ懿徳(いとく)なり。

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■前集85項

貧家浄払地、貧女浄梳頭、景色雖不艶麗、気度自是風雅。
士君子、一当窮愁寥落、奈何輙自廃弛哉。

貧家(ひんか)も浄(きよ)く地を払い、貧女(ひんじょ)も浄(きよ)く頭(こうべ)を梳(くしけず)れば、景色(けいしょく)は艶麗(えんれい)ならずと雖(いえど)も、気度(きど)は自(おの)ずから是れ風雅(ふうが)なり。
士君子(しくんし)、一(ひと)たび窮愁寥落(きゅうしゅうりょうらく)に当るも、奈何(いかん)ぞ輙(すなわ)ち自(みず)から廃弛(はいし)せんや。

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■前集86項

閑中不放過、忙処有受用。
静中不落空、動処有受用。
暗中不欺隠、明処有受用。

閑中(かんちゅう)に放過(ほうか)せざれば、忙処(ぼうしょ)に受用(じゅよう)有り。
静中(せいちゅう)に落空(らっくう)せざれば、動処(どうしょ)に受用有り。
暗中(あんちゅう)に欺隠(ぎいん)せざれば、明処(めいしょ)に受用有り。

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■前集87項

念頭起処、纔覚向欲路上去、便挽従理路上来。
一起便覚、一覚便転。
此是転禍為福、起死回生的関頭。
切莫軽易放過。

念頭(ねんとう)起(お)こる処(ところ)、纔(わず)かに欲路(よくろ)上(じょう)に向かって去るを覚(さと)らば、便(すなわ)ち挽(ひ)きて理路(りろ)上(じょう)より来(き)たせ。
一たび起(お)こらば便(すな)ち覚(さと)り、一たび覚(さと)らば便(すなわ)ち転(てん)ず。
此(これ)は是(これ)、禍(わざわい)を転(てん)じて福(ふく)と為(な)し、死(し)を起(お)こして生(せい)を回(かえ)すの関頭(かんとう)なり。
切(せつ)に軽易(けいい)に放過(ほうか)すること莫(なか)れ。

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■前集88項

静中念慮澄徹、見心之真体。
閑中気象従容、識心之真機。
淡中意趣冲夷、得心之真味。
観心証道、無如此三者。

静中(せいちゅう)の念慮澄徹(ねんりょちょうてつ)なれば、心(こころ)の真体(しんたい)を見る。
閑中(かんちゅう)の気象従容(きしょうしゅうよう)なれば、心の真機(しんき)を識(し)る。
淡中(たんちゅう)の意趣冲夷(いしちゅうい)なれば、心の真味(しんみ)を得(う)る。
心を観(かん)じ道(みち)を証(しょう)するは、此(こ)の三者(さんしゃ)に如(し)くは無し。静けさ中で、澄みきった思い考えが出来ていれば、心の本当の在り方が見える。

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■前集89項

静中静非真静。
動処静得来、纔是性天之真境。
楽処楽非真楽。
苦中楽得来、纔見心体之真機。

静中(せいちゅう)の静(せい)は真(まこと)の静(せい)に非(あら)ず。
動処(どうしょ)に静(せい)を得(え)来たりて、纔(わずか)に是れ性天(せいてん)の真境(しんきょう)なり。
楽処(らくしょ)の楽(らく)は真(まこと)の楽(らく)に非(あら)ず。
苦中(くちゅう)に楽(らく)を得(え)来たりて、纔(わずか)に心体(しんたい)の真機(しんき)を見る。

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■前集90項

舎己毋処其疑。処其疑、即所舎之志多愧矣。
施人毋責其報。責其報、併所施之心倶非矣。

己(おのれ)を舎(す)てては、其の疑いに処(お)ること毋(なか)れ。
其の疑いに処(お)らば、即(すなわ)ち舎(す)つる所(ところ)の志も多く愧(は)ず。
人に施(ほどこ)しては、其の報(みく)いを責(せ)むること毋(なか)れ。
その報(むき)を責(せ)むれば、併(あわ)せて施(ほどこ)す所(ところ)の心も倶(とも)に非なり。

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