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2006年03月09日

■後集91項

白氏云、不如放身心冥然任天造。
晁氏云、不如収身心凝然帰寂定。
放者流為猖狂、収者入於枯寂。
唯善操身心的、欛柄在手、収放自如。

白(はく)氏(し)云(い)う、「身心(しんしん)を放(はな)ちて、冥然(めいぜん)として天造(てんぞう)に任(まか)するに如(しか)ず」。
晁(ちょう)氏(し)云(い)う、「身心(しんしん)を収(おさ)めて、凝然(ぎょうねん)として寂定(じゃくじょう)に帰(き)するに如(しか)ず」。
放(はなつ)者(もの)は流(なが)れて猖狂(しょうきょう)と為(な)り、収(おさ)むる者(もの)は枯寂(こじゃく)に入(い)る。
唯(ただ)善(よ)く身心(しんしん)を操(あやつ)る的(もの)は、欛柄(はへい)手(て)に在(あ)り、収放自如(しゅうほう・じじょ)たり。

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■後集92項

当雪夜月天、心境便爾澄徹、遇春風和気、
意界亦自沖融。
造化人心、混合無間。

雪夜(せつや)の月天(げってん)に当(あ)たっては、心境(しんきょう)便爾(すなわ)ち澄徹(ちょうてつす。
春風(しゅんぷう)の和気(わき)に遇(あ)えば、意界(いかい)も亦(また)自(おのず)から沖融(ちゅうゆう)す。
造化(ぞうか)人心(じんしん)、混合(こんごう)して間(へだて)なし。

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■後集93項

文以拙進、道以拙成。
一拙字有無限意味。
如桃源犬吠、桑間鶏鳴、何等淳龐。
至於寒潭之月、古木之鴉、工巧中便覚有衰颯気象矣。

文(ぶん)は拙(せつ)を以(もっ)て進(すす)み、道(みち)は拙(せつ)を以(もっ)て成(なる)る。
一(いつ)の拙(せつ)の字(じ)に無限(むげん)の意味(いみ)有(あ)り。
「桃源(とうげん)に犬(いぬ)吠(ほ)え、桑間(そうかん)に鶏(けい)鳴(な)く」が如(ごとき)は、何等(なんら)の淳龐(じゅんろう)ぞ。
「寒潭(かんたん)の月(つき)、古木(こぼく)の鴉(からす)」に至(いた)りては、工巧(くこう)の中(うち)、便(すなわ)ち衰颯(すいさつ)の気象(きしょう)有(あ)るを覚(おぼ)ゆ。

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■後集94項

以我転物者、得固不喜、失亦不憂、大地尽属逍遥。
以物役我者、逆固生憎、順亦生愛、一毛便生纏縛。

我(われ)を以(もっ)て物(もの)を転(てん)ずる者(もの)は、得(とく)も個(もと)より喜(よろ)ばず、失(しつ)も亦(また)憂(うれ)えず、大地(だいち)尽(ことごと)く逍遥(しょうよう)に属(ぞく)す。
物(もの)を以(もっ)て我(われ)を役(えき)する者(もの)は、逆(ぎゃく)は固(もと)より憎(ぞう)を生(しょう)じ、順(じゅん)も亦(また)愛(あい)を生(しょう)じ、一毛(いちもう)も便(すなわ)ち纒縛(てんぱく)を生(しょう)ず。

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■後集95項

理寂則事寂。
遺事執理者、以去影留形。
心空則境空去。
境在心者、如聚羶却蚋。

理(り)寂(じゃく)なれば則(すなわ)ち事(こと)寂(じゃく)なり。
事(こと)を遺(や)りて理(り)を執(と)る者(もの)は、影(かげ)を去(さ)りて形(かた)を留(とど)むるに似(に)たり。
心(こころ)空(くう)なれば則(すなわ)ち境(きょう)空(くう)なり。
境(きょう)を去(さ)りて心(こころ)を在(そん)するは、羶(せん)を聚(あつ)めて蚋(ぜい)を却(しりぞ)くるが如(ごと)し。

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■後集96項

幽人清事総在自適。
故酒以不勧為歓、棋以不浄為勝。
笛以無腔為適、琴以無絃為高。
会以不期約為真率、客以不迎送為坦夷。
若一牽文泥迹、便落塵世苦海矣。

幽人(ゆうじん)の清事(せいじ)は総(すべ)て自適(じてき)に在(あ)り。
故(ゆえ)に酒(さけ)は勧(すす)めざるを以(もっ)て歓(かん)と為(な)し、棋(き)争(あらそ)わざるを以(もっ)て勝(しょう)と為(な)す。
笛(ふえ)は無腔(むこう)を以(もっ)て適(てき)と為(な)し、琴(きん)は無絃(むげん)を以(もっ)て高(こう)と為(な)す。
会(かい)は期約(きやく)せざるを以(もっ)て真率(しんそつ)と為(な)し、客(きゃく)は迎送(そうげい)せざるを以(もっ)て坦夷(たんい)と為(な)す。
若(も)し一(ひと)たび文(ぶん)に牽(ひ)かれ、迹(あと)に泥(なず)まば、便(すなわ)ち塵世(じんせ)の苦海(くかい)に落(お)ちん。

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■後集97項

試思未生之前有何象貌、又思既死之後作何景色、則万念灰冷、一性寂然、自可超物外遊象先。

試(こころ)みに未(いま)だ生(しょう)ぜざるの前(まえ)に、何(なん)の象貌(しょうぼう)有(ある)かを思(おも)い、又(また)既(すで)に死(し)するの後(のち)に何(なん)の景色(けしき)を作(な)すかを思(おも)わば、則(すなわ)ち万念(ばんねん)は灰冷(かいれい)し、一性(いっしょう)は寂然(じゃくねん)として、自(おのず)から物(もの)外(そと)に超え、象(しょう)の先(さき)に遊(あそ)ぶべし。

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■後集98項

遇病而後思強之為宝、処乱而後思平之為福、非蚤智也。
倖福而知其為禍之本、貪生而先知其為死之因、其卓見乎。

病(やまい)に遇(お)うて後(のち)に強(きょう)の宝(たから)為(た)るを思(おも)い、乱(らん)に処(お)りて後(のち)に平(へい)の福(さいわい)為(た)るを思(おも)うは、蚤智(そうち)に非(あら)ざるなり。
福(さいわい)を倖(ねが)いて、其(そ)の禍(わざわい)の本(もと)為(た)るを知り、生(せい)を貪(むさぼ)りて先(ま)ず其(そ)の死(し)の因(いん)為(た)るを知るは、それ卓見(たっけん)なり。

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■後集99項

優人傅粉調硃、效妍醜於毫端、俄而歌残場罷、妍醜何在。
弈者争先競後、較雌雄於着子、俄而局尽子収、雌雄安在。

優人(ゆうじん)、粉(ふん)を傅(つ)け硃(しゅ)を調(ととの)え、研醜(けんしゅう)を毫端(ごうたん)に效(いた)すも、俄(にわか)にして歌(うた)残(のこ)り、場(ば)罷(や)まば、研醜(けんしゅう)何(なん)ぞ在(そん)せん。
弈者(えきしゃ)、先(さき)を争(あらそ)い後(のち)競(きそ)い、雌雄(しゆう)を着子(ちゃくし)に較(くら)ぶるも、俄(にわか)にして局(きょく)尽(つ)き子(こ)収(おさ)むれば、雌雄(しゆう)安(いずく)にか在(あ)らん。

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■後集100項

風花之瀟洒、雪月之空清、唯静者為之主。
水木之栄枯、竹石之消長、独閒者操其権。

風花(ふうか)の瀟洒(しょうしゃ)、雪月(せつげつ)の空清(くうせい)、唯(ただ)静(せい)なる者(もの)のみ、之(これ)が主(しゅ)と為(な)る。
水木(すいぼく)の栄枯(えいこ)、竹石(ちくせき)の消長(しょうちょう)、独(ひと)り閒(かん)なる者(もの)のみ、其(そ)の権(けん)を操(と)る。

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■後集101項

田父野叟、語以黄鶏白酒、則欣然喜、問以鼎養食、則不知。
語以藥袍裋褐、則油然楽、問以袞服、則不識。
其天全、故其欲淡、此是人生第一個境界。

田父野叟(でんぷやそう)は、語(かた)るに黄鶏白酒(おうけいはくしゅ)を以(もっ)てすれば、則(すなわ)ち欣然(きんぜん)として喜(よろこ)び、問(と)うに鼎養(ていよう)を以(もっ)てすれば、則(すな)わち知らず。
語(かた)るに藥袍裋褐(おんぽじゅかつ)を以(もっ)てすれば、則(すなわ)ち油然(ゆうぜん)として楽(たの)しみ、問(と)うに袞服(こんぷく)を以(もっ)てすれば、則(すなわ)ち識らず。
その天(てん)は全(まった)し、故(ゆえ)に其(そ)の欲(よく)淡(あわ)し。此(これ)は是(こ)れ人生(じんせい)第一個(だいいっこ)の境界(きゅがい)なり。

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■後集102項

心無其心、何有於観。
釈氏曰観心者、重増其障。
物本一物、何待於斉。
荘生曰斉物者、自剖其同。

心(しん)に其(そ)の心(しん)無(なく)ば、何(なん)ぞ観(かん)有(あ)らん。
釈氏(しゃくし)「心(こころ)を観(かん)ず」と曰(い)うは、重(かさ)ねて曽(そ)の障(しょう)を増(ま)すなり。
物(もの)本(もと)は一物(いちぶつ)、何(なん)ぞ斉(ひと)しくするを待(ま)たん。
荘生(そうせい)「物(もの)を斉(ひと)しくせよ」と曰いうは、自(みずか)ら其(そ)の同(どう)を剖(さ)くなり。

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■後集103項

笙歌正濃処、便自払衣長往、羨達人撒手懸崕。
更漏已残時、猶然夜行不休、咲俗士沈身苦海。

笙歌(しょうか)正(まさ)に濃(こま)やか処(ところ)、便(すなわ)ち自(みずか)ら衣(ころも)を払(はら)って長(なが)く往(ゆ)く。
達人(たつじん)の手(て)を懸崕(けんがい)に撒(さん)するを羨(うらや)む。
更漏(こうろう)已(すで)に残(のこ)る時(とき)、猶然(ゆうぜん)として夜(よる)行(ゆ)きて休(やす)まず、俗士(ぞくし)の身(み)を苦海(くかい)に沈(しず)むるを咲(わら)う。

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■後集104項

把握未定、宜絶迹塵囂。
使此心不見可欲而不乱、以澄吾静体。
操持既堅、又当混迹風塵。
使此心見可欲而亦不乱、以養吾円機。

把握(はあく)未(いまだ)定(さだ)まざれば、宜(よろ)しく迹(あと)を塵囂(じんごう)に絶つべし。
此(こ)の心(こころ)を欲(ほっ)すべきを見(み)ずして、乱(みだ)れざらいしめ、以(もっ)て吾(わ)が静体(せいたい)を澄(す)ます。
操持(そうじ)既(すで)に堅(かた)くば、又(また)当(まさ)に迹(あと)を風塵(ふうじん)に混(こん)ずべし。
此(こ)の心(こころ)を欲(ほっ)すべきを見(み)て、亦(また)乱(みだれ)ざらしめ、以(もっ)て吾(わ)が円機(えんき)を養(やしな)う。

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■後集105項

喜寂厭喧者、往往避人以求静。
不知、意在無人便成我相、心着於静便是動根。
如何到得人我一視、動静両忘的境界。

寂(せき)を喜(よろこ)び喧(けん)を厭(いと)う者(もの)は、往々(おうおう)にして人(ひと)を避(さ)け以(もっ)て静(せい)を求(もと)む。
意(い)、人(ひと)無(な)き在(あ)らば、便(すなわち)我相(がそう)を成(な)し、心(こころ)静(せい)に着(ちゃく)せば、便(すなわ)ち是(こ)れ動根(どうこん)なるを知らず。
如何(いかん)ぞ、人我一視(じんがいっし)、動静(どうせい)両忘(りょうぼう)の境界(きょうがい)に到(いた)り得(え)んや。

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■後集106項

山居胸次清洒、触物皆有佳思。
見孤雲野鶴、而起超絶之想、遇石澗流泉、而動澡雪之思。
撫老檜寒梅、而勁節挺立、侶沙鷗麋鹿、而機心頓忘。
若一走入塵寰、無論物不相関、即此身亦属贅旒夷。

山居(さんきょ)すれば、胸次(きょうじ)は清洒(せいしゃ)にして、物(もの)に触(ふる)れて皆(みな)佳思(かし)有(あ)り。
孤雲野鶴(こうんやかく)を見(み)ては、超絶(ちょうぜつ)の想(おも)いを起(おこ)し、石澗流泉(せきかんりゅうせん)に遇(あい)ては、澡雪の思いを動かす。
老檜寒梅(ろうかくかんばい)を撫(ぶ)して、勁節挺立(けいせつていりつ)し、沙鷗麋鹿(さおうびろく)を侶(とも)として、機心(きしん)頓(とみ)に忘(わす)れる。
若(も)し一(ひと)たび塵寰(じんか)に走(はし)り入(い)らば、物(もの)の相関(そうかん)せざるに論(ろん)無(な)く、即(すなわ)ち此(こ)の身(み)亦(また)贅旒(ぜいりゅう)に属(ぞく)す。

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■後集107項

興逐時来、芳草中撒履閒行、野鳥忘機時作伴。
景与心会、落花下披襟兀坐、白雲無語漫相留。

興(きょう)、時(とき)を逐(お)いて来たれば、芳草(ぼうそう)の中(うち)、履(くつ)を撒(なげう)ちて閒行(かんこう)し、野鳥(やちょう)機(き)を忘(わす)れて時(とき)に伴(とも)為(な)す。
景(けい)、心(こころ)を与(あた)え会(かい)さば、落花(らっか)の下(もと)、襟(えり)を披(ひら)いて兀坐(ごつざ)し、白雲(はくうん)語(ご)を無(なく)して漫(そぞろ)に相(あい)留(りゅう)す。

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■後集108項

人生福境禍区、皆念想造成。
故釈氏云、利欲熾然、即是火坑、貪愛沈溺、便為苦海。
一念清浄、烈焔成池、一念警覚、船登彼岸。
念頭稍異、境界頓殊。
可不慎哉。

人生(じんせい)の福境禍区(ふくきょうかく)は、皆(みな)念想(ねんそう)より造成(ぞうせい)す。
故(ゆえ)に釈氏(しゃくし)云(い)う、「利欲(りよく)に熾然(しねん)ならば、即(すなわ)ち是(こ)れ火坑(かこう)なり。
貪愛(とんあい)に沈溺(ちんでき)すれば、便(すなわ)ち苦海(くかい)と為(な)る。
一念清浄(いちねんせいじょう)なれば、列焔(れつえん)も池(いけ)と成(な)り、一念警覚(いちねんきょうかく)を覚(かく)すれば、船(ふね)彼岸(ひがん)に登(のぼ)る」。
念頭(ねんとう)稍(やや)異(こと)なれば、境界(きょうかい)は頓(とみ)に殊(こと)なる。
慎(つつ)しまざるべけんや。

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■後集109項

繩鋸木断、水滴石穿。
学道者須加力索。
水到渠成、瓜熟蔕落。
得道者一任天機。

繩鋸(じょうきょ)に木(き)断(た)ち、水滴(すいてき)石(いし)を穿(うが)つ。
道(みち)を学(まな)ぶ者(もの)、須(すべか)らく力索(りきさく)を加(くわ)う。
水到(すいち)に渠(みぞ)成(な)り、瓜熟(きゅうじゅく)蔕(へた)を落(おと)つ。
道(みち)を得(う)る者(もの)、一(ひとえ)に天機(てんき)に任(まか)す。

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■後集110項

機息時、便有月到風来、不必苦海人世。
心遠処、自無車塵馬迹、何須痼疾丘山。

機(き)息(や)む時(とき)、便(すなわ)ち月(つき)に到(いた)り風(かぜ)来(き)たる有(あ)り、必(かなら)ずしも苦海(くかい)の人世(じんせ)ならず。
心(しん)遠(とお)き処(ところ)、自(おのず)から車(くるま)に馬(うま)塵(よご)れ迹(たず)ねること無(な)く、何(なん)ぞ痼疾(こしつ)の丘山(くうざん)を須(もち)いん。

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■後集111項

草木纔零落、便露萠穎於根底。
時序雖凝寒、終回陽気於飛灰。
粛殺之中、生生之意、常為之主。
即是可以見天地之心。

草木(そうもく)纔(わずか)に零落(れいらく)すれや、便(すなわ)ち萠穎(ほうえい)を根底(こんてい)に露(あら)わす。
時序(じじょ)は凝寒(ぎょうかん)と雖(いえど)も、終(つい)に陽気(ようき)を飛灰(ひはい)に回(めぐら)す。
粛殺(しゅくさつ)の中(うち)、生々(せいせい)の意(い)、常(つね)に之(これ)主(しゅ)となる。
即(すなわ)ち是(これ)を以(もっ)て天地(てんち)の心(こころ)を見(み)るべし。

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■後集112項

雨余観山色、景象便覚新妍。
夜静聴鐘声、音響尤為清越。

雨余に山色(うよさんすい)を観(み)れば、景象(けいしょう)便(すなわ)ち新妍(しんけん)を覚(おぼ)ゆ。
夜(よる)静(しず)かに鐘声(しょうせい)を聴(き)けば、音響(おんきょう)も清越(せいえつ)と為(な)す。

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■後集113項

登高使人心曠、臨流使人意遠。
読書於雨雪之夜、使人神清、舒嘯於丘阜之嶺、使人興邁。

高(たか)きに登(のぼ)らば、人(ひと)をして心(こころ)曠(ひろ)からしめ、流(なが)れに臨(のぞ)めば、人(ひと)をして意(い)遠(とお)からしむ。
書(しょ)を雨雪(うせつ)の夜(よる)に読(よ)まば、人(ひと)をして神(かみ)清(きよ)からしめ、嘯(しょう)を丘阜(きゅうふ)の嶺(いただき)に舒(の)ぶれば、人(ひと)をして興(きょう)邁(まい)ならしむ。

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■後集114項

心曠則万鐘如瓦缶、心隘則一髪似車輪。

心(こころ)曠(ひろ)ければ、万鐘(ばんしょう)も瓦缶(がふ)の如(ごと)く、心(こころ)隘(せま)ければ、一髪(いっぱつ)も車輪(しゃりん)に似(に)たり。

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■後集115項

無風月花柳、不成造化。
無情欲嗜好、不成心体。
只以我転物、不以物役我、則嗜慾莫非天機、塵情即是理境矣。

風月(ふうげつ)花柳(かりゅう)無(な)くば、造化(ぞうか)を成(な)さず。
情欲(じょうよく)嗜好(しこう)無(な)くば、心体(しんたい)を成(な)さず。
只(ただ)我(われ)を以(もっ)て物(もの)を転(てん)じ、物(もの)を以(もっ)て我(われ)を役(えき)せざれば、則(すなわ)ち嗜慾(しよく)も天機(てんき)に非(あら)ざるは莫(な)く、塵情(じんじょう)も即(すなわ)ち是(こ)れ理境(りきょう)なり。

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■後集116項

一身(いっしん)に就(つ)きて、一身(いっしん)を了(りょう)ずる者(もの)、方(はじ)めて能(よ)く万物(ばんぶつ)を以(もっ)て万物(ばんぶつ)に付(ふ)す。
天下(てんか)を天下(てんか)に還(かえ)す者(もの)は、方(はじ)めて能(よ)く世間(せけん)より世間(せけん)に出(い)ず。

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■後集117項

人生太閑、則別念竊生、太忙則真性不現。
故士君子不可不抱身心之憂、亦不可不耽風月之趣。

人生(じんせい)太(はなは)だ閑(かん)なれば、則(すなわ)ち別念(べつねん)竊(ひそ)かに生じ、太(はなは)だ忙(ぼう)なれば、則(すなわ)ち真性(しんせい)現(あらわ)れず。
故(ゆえ)に士君子(しくんし)、身心(しんしん)の憂(うれ)いを抱(いだか)ざる不可(べからず)、亦(また)風月(ふうげつ)の趣(おもむき)に耽(ふけ)らざる不可(べからず)。

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■後集118項

人心多従動処失真。
若一念不生、澄然静坐、雲興而悠然共逝、雨滴而冷然倶清、鳥啼而欣然有会、花落而瀟然自得。
何地非真境、何物無真機。

人心(じんしん)多(おお)く動処(どうしょ)真(しん)を失(うし)う。
若(もし)一念(いちねん)生(しょう)ぜず、澄然(ちょうぜん)静坐(せいざ)せば、雲(くも)興(おこ)り悠然(ゆうぜん)として共(とも)に逝(ゆ)き、雨(あめ)滴(したた)りて冷然(れいぜん)倶(とも)に清(きよ)く、鳥(とり)啼(な)いて欣然(きんぜん)として会(かい)する有(あ)り、花(はな)落(お)ちて瀟然(しょうぜん)として自得(じとく)す。
何(いず)れの地(ち)か真境(しんきょう)に非(あらざ)れば、何(いず)れの物(もの)か真機(しんき)無(な)からん。

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■後集119項

子生而母危、鏹積而盗窺、何喜非憂也。
貧可以節用、病可以保身、何憂非喜也。
故達人当順逆一視而欣戚両忘。

子(こ)生(う)れて而(すな)ち母(はは)危(あや)うく、鏹(きょう)積(つ)んで而(すな)わち盗(ぬすびと)窺(うかが)い、何(なん)の喜(よろ)びか憂(うれ)いに非(あら)ざらん也(や)。
貧(ひん)は以(もっ)て用(よう)を節(せつ)すべく、病(やまい)以(もつ)て身(み)を保(たも)つ可(べき)や、何(なん)の憂(うれ)いか喜(よろこ)びに非(あ)らざらん。
故(ゆえ)に達人(たつじん)は、当(まさ)に順逆(じゅうじゅん)一(いつ)に視(み)て、欣戚(きんせき)両忘(りょうぼう)すべし。

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■後集120項

耳根似颷谷投響、過而不留、則是非倶謝。
心境如月池浸色、空而不着、則物我両忘。

耳根(にこん)は颷谷(ひょうこく)の響(ひび)きを投(とう)ずるに似(に)、
過(す)ぎ而(しか)して留(とど)め不(ざ)れば、則(すなわ)ち是非(ぜひ)倶謝(ぐしゃ)す。
心境(しんきょう)は月池(げっち)の色(いろ)を浸(ひた)すが如(ごと)く、空(くう)而(しか)して着(ちゃく)せ不(ざ)れば、則(すなわ)ち物我(ぶつが)両忘(りょうぼう)す。

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